黄色い手帖と白い世界 赤いギターと黒い船

少しだけ 背中をおせる 物語

『コードって何?』灰場ロック

灰場とバンドを組もうという話になった後、灰場から教えてもらった通りにギターの練習をしていた。右手と左手の押弦と弦を弾くタイミングを限りなくゼロに近づける、という内容のもの。灰場曰くはこれが上手く出来るようになると見違えるほどギターの音がカッコよくなるという事だった。

 

昼間はギターをひたすら練習し、夜は鬼丸と筋トレ。毎日どこかしらの部位の筋肉痛に耐えながらギターを淡々と弾く。どちらもまだまだ基本の域を出るものではないが、日に日に自分の体やスキルが良くなっている事を実感できて、この船に乗って以来、自分なりにとても充実した日々を送れていると思う。

 

そして今日もスタジオ(音楽室)。いつものように淡々と練習をしていると、灰場が声を掛けてきた。

 

「だいぶ上達したね、イエロウ。そろそろ次のフェーズに移行しよう。ちなみに練習の間にコードは覚えたりしていた?」

 

「いや、コードの方は特に手を出してない。とりあえず言われてた通りに右手と左手の練習ばっかりだ。それに一応、基本的なコードは知っているし。」

 

「そうか。じゃあ今日からコードの練習を足して行こう。そもそもコードってどういうものかは知っている?」

 

「和音の事だろう?文字通り音を足して、複数の音を同時に鳴らす事だ。」

 

「概ねは合っているけど、じゃあコードってどうやって決まっている?CとかEとか色んなコードがあるよね?」

 

「うーん、分かんね。」

 

「じゃあその辺りを詳しく解説するよ。それから練習に入ろう。」

 

「はいよ。よろしく。」

 

「まず、コードっていうのはイエロウも言った通り和音だね。複数の音が重なっている事をいう。それぞれの音が重なり合う事で、綺麗だったり、不穏だったり、複雑なハーモニーが生まれるわけだ。」

 

「で、コードにはアルファベットでCから始まり、C#(=D♭)、D、D#(E♭)、E、F、F#(G♭)、G、G#(A♭)、A、A#(B♭)、Bと種類がある。このアルファベットの違いは何?っていうのをイエロウに聞いたわけだけど、答えはルート(根音)がどの音階かで決まってくるんだ。つまりルートがドレミで言うところのドの音だったら、ド=CだからCとなる。」

 

「そしてこのルートに対して組み合わせる音階で和音の響き方が変わるんだ。例えば、ドとミとソを組み合わせると、これはCメジャーってコードになる。」

 

「メジャーと呼ばれる和音の特徴は、音の響きが明るい事だな。それとすごく耳に馴染みやすいというか、聴いていて違和感のない気持ちのいいハーモニーだ。」

 

「次はドとミ♭とソを鳴らしてみよう。さっきのCメジャーの音階のミを半音下げたパターンだ。メジャーコードとは対照的に暗いハーモニーだよね。これがマイナーコードで、今弾いてもらったのがCマイナーってコードだよ。」

 

「このメジャーコードとマイナーコードっていうのは、和音の基本的な構成だね。王道と言ってもいい。これらの音に装飾音といって、構成音以外の音を足す事でまた色々な響きを得られることが出来る。これをテンションコードと呼ぶんだけど、この話はもう少し先にしよう。テンションコードっていうのは膨大な数に登る。語り出すと時間が掛かるっていうのと、まずはメジャーコードとマイナーコードをもう少し説明しておきたいから。」

 

「さて、ここまでコードの説明を長々としてきた訳だけど、ぶっちゃけ構成音は何か?とかそんなのはギターに関しては最初は覚えなくてもいい。ごめんねー。なんでかっていうと、ギターについてはどの弦のどのフレットをそれぞれ押さえればどの和音が鳴るっていうのが偉大な先人達によって確立されてるんだよ。簡単に言うと手のフォームが決まっている。このフォームで基本的なパターンを覚えると、あとはフレットを変えるだけど色んなコードが演奏出来るんだ。だから最初は理屈で考えるよりもまずフォームで覚える方が手っ取り早いのさ。このパターンを少しずつ覚えていこう。」

 

「分かった。メジャーコードとマイナーコードなら大体知ってるから、今度はコードを変えながら右手と左手のタイミングを練習してみるよ。」

 

「右手はストロークで弾いてね。全部の弦を一気に弾くんだ。1弦ずつ撫でるように弾くんじゃなくて、6弦全てを弾ききるように。ジャラ〜ンじゃなくてジャン!って感じだ。」

 

「オーケー。」

 

「左手はどんどんコードを変えていっていいよ。自由にしていい。だけどせっかくだから、コードを変えていく時のメジャーとマイナーの響きを意識してみるといいよ。いくつかのコードを順番に使ってハーモニーを変えていくことをコード進行という。コード進行の中でメジャーとマイナーを適度に入れ替えながら弾くと楽しいよ。」

 

「明るかったり暗かったり、メリハリをつけるって感じか。」

 

「それもある。メリハリっていうか表情っていうイメージかな。」

 

「それともうひとつ、コード進行っていうのは面白い部分があってさ。メジャーコードとマイナーコードっていうのは、コード単体で弾くとはっきり明るい、暗いが分かるんだけど、コード進行の中でその響きを変化させる事があるんだ。メジャーコードは明るいはずなのに、前後のコードの影響であまり明るく聴こえない事もある。そしてその逆も。マイナーコードなのに、前向きな響きに聴こえたりするんだよね。この辺りはほんと感覚的な部分なんだ。人によって心地いいと感じる事もあれば、耳障りが悪くて気持ち悪い!って場合もある。そういった感覚が人によって違う曲を生み出す要因なんだと思うんだよ。」

 

「将来的にはイエロウが作った曲とかも聞いてみたいから、今のうちに自分の好きなコード進行なんかも探してみればいいと思って。」

 

「いやぁ作曲とか出来る自信ないんだけど。」

 

「だから今からそのセンスを磨いていくんだ。それに曲を作るのって、それ自体は特に難しい事じゃないんだよ。言ってしまえば、出来た曲に対する編曲の方が何倍も難しい。作曲はセンスが重要だけど、センスっていうのは生まれた瞬間に決まるような先天的なものじゃないと俺は思ってる。むしろ、自分が今まで生きてきた中で触れた音楽から少しずつ軸が出来てくる、後天的なものだと思うんだ。言ってしまえば、自分の『好き』っていう感情の集大成がオリジナル曲だ。だから今からでも全然遅くない。少しずつ自分の中の軸を作り上げていこう。」

 

「そうか。俺もまだ遅くない。ちょっとやる気出てきた。ありがとう、頑張ってみるよ。」

 

「よし。じゃあ始めようか。」

 

終わり