黄色い手帖と白い世界 赤いギターと黒い船

少しだけ 背中をおせる 物語

『ギターを始める為に知っておく事』灰場ロック

灰場にバンドに誘われてからというもの、朝食後はスタジオ(音楽室の事だが、この言い方の方が灰場的にいいらしい。バンドマンぽい。)に入る。

 

「ここ数日一緒にやって分かった。イエロウはあんまり上手くないね。」

 

直球ぅ!

 

「センスとか知識とかの前にもう一度基礎からだな。バンド経験があるとはいえ。」

 

「バンド経験者といってもメンバーはみんな楽器初心者からだったしな。誰がどう悪いかが分からないんだよ。だから誰もお互いに指摘しなかった。」

 

「のんびりやってたんだなぁ。別にそれ自体は否定しないけど、俺とやるにはもっと上手くなってもらわないとどうしようもない」

 

直球ぅ!

 

「はっきり言ってくれるよね。まぁ自覚はあるよ。で、何から始めればいい?」

 

「まずはギターの基本中の基本から始めようか。ちょっと説明するね。」

 

「ギターっていう楽器の特徴はまず、弦楽器であるという事だ。バイオリンやヴィオラやチェロなどと同じ仲間だな。これは楽器の形を見れば一目瞭然だ。ボディと呼ばれる、だるまみたいな形をした木の箱からネックと呼ばれる指板が伸びていて、その先にヘッドと呼ばれる弦を固定する部位がある。ちなみにヘッドについている弦を通して張力を変えるツマミをペグと言うんだ。弦楽器だから当然、弦を張る。ギターに張る弦の本数は基本的に6本だ。弦には色々な材質のものがあるけれど、ギターについては金属弦かナイロン弦だな。ナイロン弦はクラシックギターで用いられる事が多い。それ以外は金属弦という認識でまずはオッケーだ。ちなみに今俺たちが使っているギターには金属弦が張ってある。この弦を振動させてボディで反響させ、音量を大きくして音を鳴らすのがアコースティックギターだ。ギターには大きく分けてもう一つ種類がある。エレキギターだな。エレキギターのボディは基本的には木の板だ。そこにピックアップと呼ばれる、簡単に言えばマイクが付いているわけだ。そのピックアップで弦の振動を電気信号に変換して、アンプと呼ばれる外部スピーカーで音量を増幅して音を出す。」

 

「まぁその辺りの事は知っている。」

 

「じゃあ次は弾くための準備だ。まずはチューニング。ギターを持って構えた時に、一番細い弦を一番下に張る。これが1弦だ。1弦から順番に上に向かって2〜6弦だな。弦の数字が大きくなるにつれて、弦自体も太いものになる。チューニングっていうのは調律だ。音程を調整する事。ギターだと6弦から順にEADGBEに合わせる。ドレミで言うとミラレソシミになる。これがギターの基本的な調律であり、レギュラーチューニングと呼ぶ。レギュラーと言うだけあって、このチューニングで演奏されている曲が世の中の大半を占めていると言っても過言じゃあない。って事はつまり、このレギュラーチューニングがちゃんと出来ていなければ、殆どの曲が弾けないと言う事だ。弾けないというのは大げさだけれども、少なくとも聴いている人に不快感を与えていると考えれば、ちゃんと弾けていないのと同義だと俺は思っている。だからまずはしっかりとチューニングを行う事だ。」

 

「チューニングを行う方法はいくつかある。もっとも手っ取り早いのがチューナーと呼ばれる、音程を視覚化してくれる機材を使う事だ。チューナーを使えば誰でもちゃんとしたチューニングが出来る。画期的な機材だよ。ほとんどのギタリストはチューナーを使用している。」

 

「他には音叉(おんさ)を用いた方法がある。音叉ってのは金属で出来たYの字の棒だ。この音叉を軽く叩いてやると、振動してAの音が鳴る。その音を聴きながらまずは同じAの音をチューニングする。ギターでいうと5弦だ。Aの音がばっちりチューニング出来たら後はそれを基準に他の弦を調整していく。6弦の5フレットの音と5弦の開放を合わせるんだ。」

 

「フレットの説明がなかったな。フレットってのはネックにいくつも埋め込まれている金属の棒の事だ。埋め込まれる間隔はヘッド側が広く、ボディ側に行くにつれて狭くなる。このフレットとフレットの間の弦を押さえながら弾く事で音程が変わるんだ。視覚的に音程が分かるようになっているのさ。」

 

「話を戻そう。Aの音を音叉で合わせたら、6弦の5フレットを押さえた時の音と5弦の開放音、つまりフレットを押さえていない状態での音と合わせる。次に5弦の5フレットと4弦の開放音、4弦5フレットと3弦の開放音、次に3弦と2弦だが、この場合は3弦の4フレットと2弦の開放音を合わせる。そして2弦の5フレットと1弦の開放音だ。これで終わり。ちなみに1弦と6弦の開放音は同じE音だ。オクターブが違うが、これで合わせても問題はないよ。」

 

「中には自分の耳と音感で合わせる人もいる。けれどこれは誰にでも出来る事じゃない。絶対音感って知ってるか?小さい頃から音階のある楽器を弾いている人の中には音感が発達して、世の中にあるすべての音がどの音程のものか分かるんだ。これは特にピアニストに多いイメージだな。そうすると当然チューニングに関わる機材が必要なくなる。自分の耳がチューナーみたいなもんだからね。」

 

「ここまで来てようやくギターを弾く準備が整う訳だ。ここからが本番。とはいえ、音を出す方法自体はとてもシンプルだ。」

 

「ギタリストの大多数は右利きだと思うからそれで説明するよ。ギターを持って構える時はヘッド側が左手、ボディ側が右手になるように持つことが基本だ。ストラップを使って肩に掛け、立って弾く分にはこれでオッケー。座って弾く場合はボディのくびれ部分を右脚に乗せるのが一般的だね。」

 

「さて、いよいよ音を鳴らす。ギターの音の鳴らし方は簡単だ。左手を使ってネック上で弦を押さえる。右手を使って弦を弾く。これだけだ。もちろん演奏方法については様々な技術がある。だけどそれはもう少し後の話だ。」

 

「どんな演奏方法にしても一番大事なのは左手と右手の動きのタイミングだ。左手で弾く音を決めて弦押さえ、右手でその弦を弾くのだから、どうしても左手の動きが早い必要がある。そこにはラグが生まれる。けれどもこのラグは限りなくゼロに近づけるようにするんだ。これが綺麗な音をスムーズに鳴らすコツだ。ギターをちゃんと弾くには、まずこの基本を練習して精度を上げる必要があるのさ。」

 

「イエロウはこれがイマイチ出来ていない。だから、はっきり言って音が悪いんだよ。」

 

長々と説明してたかと思ったら急に来た!

直球ぅ!

 

「わかった。じゃあまずはその右手と左手のタイミングを練習はするとして。でもコードとかもすぐに覚えた方がいいんじゃないか?」

 

「覚える分には覚えていけばいいよ。でもコードを弾くにしても結局大事になってくるのは右手と左手のタイミングだ。これが上手くならないとコードが弾けてもキマらないんだよ。ちゃんと出来るようになると単純にコードを並べて弾くだけでも相当カッコよくなるんだ。」

 

「そんなに違うもんなのか。そこまで言うなら、まずはやってみるよ。」

 

「初めはどの弦でどのフレットを押さえてもいいから、単音を弾きながら感覚を掴む方がいいよ。ただし、左手の指は親指を除いて全て使うんだ。人差し指で押さえて弾いたら、次は中指で、って感じで薬指、小指と次々違う指を使うんだ。順番は入れ替わっても構わないよ。大事なのはどの指でも同じタイミングを掴む事だから。」

 

「わかった。やってみるよ。」

 

「よし。」

 

おわり