黄色い手帖と白い世界 赤いギターと黒い船

少しだけ 背中をおせる 物語

船の中

「さてまずは船の中を案内致しましょう。」

 

そういって部屋の扉を開ける。

所々から垣間見える所作の数々は彼の教養の高さを伺わせる。

きっといい家で生まれ育ったのだろう。

なにがキッカケでこんな船に乗っているのだろうか?

後で聞いてみよう。

 

「まず、この船には0から9までの番号を振り分けた部屋があります。私は0号室です。昼間は船内を移動している事が多いですが、夜間は部屋にいる事が多いです。何か困ったことがあれば遠慮なく訪ねて下さって結構です。他はそれぞれの乗組員の部屋です。」

 

部屋が並んでいる。番号は0から4までと5から9までで、通路を挟んで0と5が向かい合い、以降は番号順になっている。

 

「次に食堂です。メニューは日替わりとなっておりまして、船内の時計で7時、12時、17時にそれぞれ食事が並びます。食事はこちらで召し上がって頂くか、部屋に持ち込んで頂いても結構です。」

「イエロウくんは好き嫌いはありますか?」

 

「まぁいくつか苦手なものはあります。」

 

「そうですか。ですがこの船の食事に関しては食べ残しはしないようお願いいたします。船という性質上、食料の補給はいつでも出来るわけではありません。野菜などは船内の菜園でもいくらか栽培しておりますが、肉や魚といった素材は仕入れるしかありません。船といっても空を飛んでいますからね。そういった事を配慮して、この食堂を管理するシェフが必要な材料と栄養を計算し、料理の腕を振る舞って下さいます。」

「シェフは食べ残しをすごく嫌います。怖いですよー。あんまり機嫌を損なうと食事が抜かれる事もあります。この船で食事を作っていただけないという事は死ぬ事に直結しますので、くれぐれも気をつけて頂けますようお願いいたします。」

 

にっこり笑って怖いことを言う。

まぁ当然といえば当然だ。忠告は素直に聞いておこう。

 

「分かりました。」

 

「よろしくお願いします。では次に行きましょう。」

 

「こちらはトレーニングルームですね。マシンや器具は一通り揃っています。いつでも使用可能ですのでご自由に利用してください。」

 

「これいいですね。筋トレするのでありがたいです。」

 

「それは良かった。乗組員の中にトレーニングが好きな方もいらっしゃいますので気が合うかもしれません、」

「イエロウくんは他にも趣味はありますか?」

 

「音楽が好きで、バンドをやったりしてました。」

 

「なるほど。ではいい場所があるので次はそちらに向かいましょう。」

 

「こちらは音楽室です。こちらの利用も基本的にはいつでも自由ですが、大きな音を出すのならば夜間は控えて下さい。防音はしておりますが完全防音となると難しく、大きな音は多少漏れます。」

 

「楽器が沢山ありますね。」

 

「私が趣味で集めたものです。色々な国の民族楽器や珍しい楽器を見るとつい買ってしまうのです。乗組員の中にも楽器演奏を趣味になさっている方がいらっしゃいます。基本的に各自で所有の楽器は部屋での保管をお願いしております。ですのでここにある物は全て私が所有していまして、共用としておりますので自由に使用頂いて構いません。」

 

「ありがとうございます。近いうちに利用させていただきます。」

 

「どうぞどうぞ。では次の場所へ。」

 

「こちらはブリーフィングルームになります。」

 

「広いですね。大きなスクリーンもある。」

 

「簡単な業務連絡であれば船内放送で全ての部屋に連絡できます。一方通行で問題ありませんからね。ですのでここへは主に皆さんの意見を伺いたいときに集まっていただきます。が、私自身はそもそも会議やミーティングがあまり好きではありません。ただせっかくの設備を使わないのももったいないので、最近はシアタールームとしても開放しております。」

 

「なるほど。いいですね。」

 

「ありがとうございます。このフロアは以上です。」

 

「別のフロアもあるんですか?」

 

「このフロアの下に機関室と菜園があります。後は甲板ですね。まずは下のフロアに向かいましょうか。」

 

階段を降りると通路を挟んで無骨な金属の扉とガラス張りの菜園が広がっている。

 

「これが菜園ですね。」

 

「そうです。スペースの半分は主に野菜や果物、料理に使用するハーブなどを栽培しています。残りの部分は草花を育てて庭にしております。休憩場所としてよく利用されていますね。」

 

「船の中なのにすごいですね。」

 

「ずっと空の旅を続けていますと土の大地が恋しくなるのです。乗組員もみな地上で生まれ育った者ばかりですので、こういった場所は不可欠なんですよ。」

 

「なるほど。」

 

「向かいの扉の向こうが機関室です。機関室についてはエンジニア以外は立ち入り禁止にしております。万が一の事があるとあっという間に船が落ちます。乗っている私達は昇る事になりますかね☆」

 

☆じゃねぇよ。ひどいジョークだ。

 

「まぁよっぽどのことがない限りはすぐには落ちませんよ。ちゃんと緊急時の予備システムはあります。とは言えやはり素人が迂闊に入る場所ではありませんので、ここまでにしましょう。」

 

「分かりました。」

 

「では最後に甲板へ行きましょうか。甲板は気持ちいですよ。基本的に雲の上を飛んでいますのでいつも晴れていますから。」

 

そう言って来た道を引き返し、今度は甲板へ出た。

 

「どうです?気持ちいいでしょう。」

 

「確かに。」

 

「とりあえず船の案内は以上です。今日はこのまま自由にしていて下さい。明日から仕事初めとしましょう。」

 

「分かりました。」

 

さぁ誰から会おうか。

 

「まずは鬼丸くんがいいかもしれませんね。2号室の住人です。初対面なら鬼丸くんが話しやすいと思います。」

 

「ではそうします。」

 

「よろしくお願いします。それでは私はここで失礼します。もう一度船の中を見回りしますので。」

 

「ありがとうございました。」

 

にこりと笑って行ってしまった。

 

明日から仕事か。

とりあえず頑張ってみようか。