黄色い手帖と白い世界 赤いギターと黒い船

少しだけ 背中をおせる 物語

黒い 空飛ぶ 船

目が覚める。

見えるのは知らない天井。

どういう事だ?

 

おぼろげながら少しずつ思い出す。

「昨日」

空を見ていたら星の光が大きくなっていって、目の前に大きな船があって。

誰かの声が聞こえたような気がしたと思ったらだんだん意識がなくなってきて。

あの声はなんて言ったっけ。

確か

 

「お迎えにあがりました。どうぞこちらへ。」

 

そうだ。そうそう。今聞こえたそのまんま。そんな声だった。

 

え?

 

「いやぁ何が起きたかを思い出しているけれど、その時に聞こえた声はなんて言っていたか?というお顔に見えましたので、一言一句そのまま言い直しました。」

 

パッと部屋の明かりがついて景色がはっきりとする。

 

「おはようございます。」

 

声の方に目をやると、男が立っていた。

 

端正な顔立ち、黒い髪、全身黒い服、背が高く、何より特徴的なのは

 

全てを見透かしているような

全てを吸い込んでしまいそうな

 

飲み込まれるような

取り込まれるような

寄り添われるような

恋い焦がれるような

 

黒い眼

 

新月の夜のような眼を見続けていると溶けて眠ってしまいそうだ。

 

「私の顔に何かついていますか?」

 

にやりと笑い彼は話しかけてきた。

 

「すみません、そういうわけではないんです。」

 

「そうですか。」

穏やかな笑みになり話を続ける。

 

「急にこのような所へ来て戸惑っているでしょう。あなたが今いるのは船の中です。昨日の夜、あなたの目の前に現れた船です。」

 

「私達はあなたを迎えに来ました。」

 

「なぜ僕を?」

 

「あなたに呼ばれたからです。自覚はないでしょうが、あなたが私達を呼んだのですよ。そして私達はあなたの声を受け入れた。空いている部屋に入って頂きたいのです。」

 

「部屋?」

 

「あなたがいるこの部屋です。4号室になります。空いていた最後の部屋です。」

 

「入っていただけますか?と言っても、あなたが乗船してからもう一晩飛んでいます。降りると言われましてもすぐには出来ないのですが。」

 

「ならこのまま居るしかないですね。戻る理由も別段ありませんし。」

 

「ありがとうございます。では早速ですが、この船でのルールをお伝えしたいのですがよろしいでしょうか?」

 

「ルールですか?」

 

「はい。この船には私の他にも乗組員がいます。みなそれぞれの役割を担ってこの船の安全な運行にご協力いただいているのです。乗組員の紹介は後でいたします。要は仕事をしていただきたいのです。その代わりに当然この船での食事や生活の安定とプライバシーを保障いたします。」

 

「分かりました。仕事の内容を教えて下さい。」

 

「ありがとうございます。あなたにお願いしたいのはこれです。」

 

そう言って部屋のテーブルに置いてあった一冊の手帖を手に取った。

 

「この手帖にこの船で学んだ事や経験した事を書き留めていただきたいのです。」

 

「そんな事でいいんですか?仕事と言うには簡単すぎるのでは。」

 

「そうでもないんですよ。というのをこれから説明いたします。まず先ほど申し上げた様にこの船には乗組員が他にもいて、彼らの働きによって成り立っています。皆さん素晴らしい働きを見せていただけるのですが、なにぶんコミニュケーションに難ありと言いますか。専門家が多い分、気難しい方や常識にとらわれない方も多い。故にスタンドプレーも多いんですよ。彼らがお互いの能力と人格を認め合い、手を取り合って相乗効果が生み出されればこの船にとって大きな力になるはずなのです。」

「そこであなたにその橋渡し役を兼ねて彼らとコミニュケーションを取っていただきたいのです。この船で色々な事を学んだり経験を積むためには必然的に彼らと接触する必要がありますし。」

「最終的には彼ら自身に手を合わせていただきたいと考えていますが、一筋縄ではいかないでしょう。まずは少しずつで構いませんので彼らの内面を引き出して下さい。人間性、とでも言いましょうか。また関わっていくうちに彼らの持っている貴重な情報や知識、技術を引き出す事ができるかもしれません。それらをこの手帖に残していただきたいのです。その為の手帖です。なかなか大変な仕事ですよ?」

 

「あなたが出来ることではないのですか?」

 

「ごもっともな質問です。私自身で彼らと接する上で解決出来ればいいのですが、いかんせんそうはいかない理由があります。」

「この眼がそうです。」

「私の目は人を遠ざけるのですよ。異質はモノに感じ取られてしまいます。それが恐怖を生み、自ずと距離を置くようになる。彼らは世間との繋がりを絶って生きてきた方が多く、我々が思っている以上にデリケートなのです。」 

「ですので彼らは私と会話をする時でも目を合わせません。目を合わせられない者には心は開きませんからね。」

 

「あなたも先ほど感じ取っていたのではないですか?」

 

クスリと笑ってこちらの様子を見る。

 

「確かに。吸い込まれるかと思いました。」

 

「ただしあなたが彼らと違うのは私から目を逸らさなかったことです。」

「私の目に臆さない。これは私にとって嬉しい誤算でした。」

「ですので今回あなたにお願いしたい仕事はうってつけなのだと直感的に感じたのです。」

 

私からは以上です

と言って彼は話を終えた。

 

そもそも断れない依頼だ。断ればこの船には居られないのだから。別段、断る理由もない。コミュ症ではないが特段得意なわけでもない。だが条件としては破格だろう。

ふむ。

 

「わかりました。どこまで期待に添えられるかは分かりませんがやってみます。」

 

ありがとうございます

と言って彼は穏やかに笑った。

 

「そういえば」

「自己紹介がまだでしたね。」

 

確かに。

 

「私は黒宮です。この船の管理人、といった感じです。気軽にクロと呼んでください。」

 

「僕は家喜求一郎です。よろしくお願いします。」

 

ほう。

彼はなにかを得心したように笑った。

 

「4号室。」

「まさにうってつけですね。」

 

 

何のことやら

 

「イエロウくんと呼んでもよろしいですか?」

 

「別に構いません。」

 

「ではよろしくお願いします。イエロウくん。」

 

はてさて、どうなることやら。